旅人と言うのは、実に勝手な生き物で、訪れた時のイメージがなるべく変わらないでいて欲しいと願っている節がある。
人が住み、モノが動く中で、そんな街はあるハズもないのに。
で、特にここ数年、動きが激しいのが香港のように思う。
それは目に見える変化だけでなく、目に見えない変化と言う意味で。
そしてその変化を後押しするような政策がまた1つ。
香港映画、国安法に基づいて検閲強化!
香港政府が、2021年6月11日、「国家安全維持法」(国安法)に基づいて、市内で公開される全ての映画の閲覧を行ない、違反行為を取り締まるコトを発表しました。
民主派による大規模なデモ抗議があったのは、2019年。
そこからデモ活動の勢力はやや落ちたかな?と思った矢先にコロナ禍で、一気にトーンダウンした感じがあるけれども、「国安法」により、体制批判は非合法化され、一気に民主派の運動は抑圧の対象になり、“言論の自由”と言う意味では、ほぼなくなったに等しくなった。
そして、今回、標的になったのは、映画。
映画検閲条例を改定し、「国家安全保障を脅かす犯罪に相当し得るあらゆる行為や活動」を新たに検閲の対象に加えたコトが発表され、直ちに施行された。
もちろん、元々、香港にも公開前の映画に対する検閲制度は存在していた。
ただこれは、暴力・差別表現などをチェックし、年齢制限を設けるためのモノ。
それに比べ、中国本土での検閲制度はかなり厳しいモノであると言われており、今でも外国の作品は、ごく僅かしか一般公開されおらず、今回は、香港の映画を通して、統制を強化したいと言うコトなのだろう。
広東映画は、やや勢いに欠ける状態だったが…?
“言論の自由”の次は、“表現・文化”。
そう言う気もするけれど、そもそも香港の映画産業は、既にかなり下火になっている感じがある。
随分と対策と呼べるような作品も減ったなぁ…と。
広東映画は20~30年前に一気に世界的にも有名になった感じはあるけれど(と言うか、元々、映画産業は盛んだった)、近年は広東映画よりも中国映画に進出する俳優が主流になっているし、そこに韓国映画なども入り込んで来たので、そこまでの大ヒットが生み出せないでいるようにも思う。
それでも、未だに撮影所も残っているし、香港をベースにする映画監督も少なからずいる。
さらに自主製作の映画も比較的盛んなまま。
今回の検閲制度の強化で、どこまでメスが入るのかは分からない。
元々、公開されている映画に、「国家安全保障を脅かす犯罪に相当し得るあらゆる行為や活動」に該当するモノがどれだけあるのだろう…とも思う。
まぁ、それはタイミングと政府のさじ加減1つなのだろう。
別に常日常ならば、特に大きなクレームが入るとも思えないし。
ただ別に検閲が悪いとは言わない。
多かれ少なかれどの国でも行われているだろう話だし。
そして体制も異なる訳だから。
ただね…と言う感じ。
香港を好きになったきっかけは、映画
下火になっている感のある広東映画。
でも一時、ボクは広東映画が好きだった。
当時はまだインターネットで映画を借りたり、見れたりした訳でもないし、日本上映作品もそこまで多くはなかったように思うけれど、ブルースリーとかが出て来るような暑苦しいモノではなく、歴史モノではない広東映画が、好きだった。
ボクが好きだったのは、そう言う映画…と言うと、“何?ブルースリーとかジャッキーが出ていない広東映画なんてあるの?”と言われたけれど。
ウォン・カーウェイ監督・脚本の『恋する惑星』。
原題の『重慶森林』(Chungking Express)の名前の通り、前半の舞台はチョンキンマンション。
『深夜特急』で沢木氏が泊った場所でもあるけれど、ボク的には、『恋する惑星』の舞台の方がイメージとして大きい。
そして後半のミッドレベル・エスカレーターでトニー・レオンに手を振るシーンとかは、前に香港に行った時についやりたくなったりするぐらい、今でも鮮明に覚えているシーンだし、フェイ・ウォンの『夢中人』が流れて来ただけで、気持ちだけは金城武かトニー・レオンになっちゃう。
俳優として一番好きなのは、今でもレスリー・チャン。
命日を覚えていて、その日になると彼の映画を見てしまうのだけれど、何度となく行っている香港だけれど、未だに彼が亡くなった場所だけは、避けて旅するようにしていたりする。
香港の映画は、ボクの中で香港が好きになった理由の1つ。
旅をしていて、行って好きになると言う都市は数多あるけれど、行く前に好きになったのは、香港の他にはごく僅かだと思う。
そんな香港の映画。
果たして今回の検閲制度の強化で、何か変わるのだろうか。
映画の中の香港は、変わらない。
怪しくて、それでいてエネルギッシュで、それでいて人情味がちょっとあって、都会と下町が同居している感じで。
いつまでそんな香港があるのだろう…
いや、そんな香港、実はもうないのかも知れないけれど。
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