『同じ釜の飯』
著:中野嘉子・王向華
刊:平凡社
かつて日本の企業は世界で輝いていた
初版が2005年なので、ちょっとだけ古い本。
かつて日本の電化製品と言うのは、世界の至る所で見られたし、お店の一番目立つ場所で売られていた時代があった。
空港を出て1番最初に見られる看板だって日本の企業のモノや電化製品の看板であるコトが多かったし、それぐらい、日本の企業には勢いがあった。
いつしか日本の電化製品を店頭で見れる機会は減って、大体、お店の奥の方に辛うじてちょこんと売っているぐらいになり(それでも売られているだけマシなのかも知れない)、代わりにサムソンに代表される韓国の製品が売られる様になり、今やそこに中国の製品が入って来て、さらに日本の電化製品は影が薄くなってしまった。
思えば、空港からの道で見る看板も、日本企業のモノは少なくなったし、そもそも電化製品を作り続けている日本企業と言うのも、随分と減ってしまった。
東芝の白物家電業とシャープは外資系になってしまったし(東芝の家電部門は、中国の美的集団、シャープは台湾の鴻海資本になっている)、富士通やNECのPC部門もレノボ傘下になっている。
ソニーは辛うじて立て直しが出来た感じがあるし、ソニーの場合は、家電だけじゃなくてプレイステーションや映像・音楽・金融部門もあるので、まだ死に体じゃないけれど、反転攻勢に出ている感じは皆無で、ホントにどの日本企業も、かつての様な勢いもなければ、ヒット商品も出ていない。
いつの間に、こんなに低調になってしまったのだろう…と思う。
日本国内にいると、そこまで気にならないのかも知れないけれど。
香港で電気炊飯器が飛ぶ様に売れた松下
本書に描かれているのは、まだ日本の家電メーカーが元気で、“これから~”と言う頃の時代の話。
ナショナル(パナソニック)が電気炊飯器を香港で売る為に、どう言う戦略を取ったのかと言う物語で、グローバリゼーションの中、どうやって現地に溶け込んだのかと言う話。
“ナショナル炊飯器は人口680万人の香港でなぜ800万台売れたか”
それが本書の副題なのだが、その立役者である蒙民偉氏にスポット当てている。
本書が出版された時は、まだ存命であった蒙民偉氏。
2010年に82歳でお亡くなりになっているけれども、この蒙民偉氏がいなければ、ナショナルの炊飯器は香港でこれだけの大ヒットを生み出すコトは出来なかったに違いない。
“郷に入っては郷に従え”と言う日本のことわざがあるが、ホントにそう言う感じで、信頼出来るパートナーがいるからこそ、香港のニーズを的確に捉えるコトが出来、改良を加えられるコトが出来たのだと言う話。
余談だけれども、この蒙民偉氏の名前は、香港にある大学(香港大学・香港中文大学・香港科技大学など)や清華大学などで、今も見るコトが出来たりします。
グローバリゼーションの時代で、国境を超えると言うコト
このグローバリゼーションの時代で、日本のブランドの製品を、海を越えて売るには、
・日本と全く同じ形で売る
・現地版へと改良を加えて売る
この2タイプがあると思うが、前者ならば付加価値を付けて高品質高価格と言う戦略になるのだろう。
その場合、爆発的にヒットすると言うのは、ちょっと難しい感じはあるだろう。
後者の場合は、ヒットすれば大きいが、下手をすると全く売れ残ると言うコトになりかねなく、やはり現地のパートナーによる発想と行動力が大きなチカラになる。
本書に描かれる松下の香港の場合、それが蒙民偉氏だった訳だが、あの松下幸之助が、絶対的に信頼を寄せ、口約束だけで海外代理店を任せていたと言うのだから、その信頼度が分かると言うモノ。
代理店と言うよりも、寧ろ、対等な関係のビジネスパートナーと言った方が、正しい間柄とも言えるだろう。
安易にグローバル化と言って、自社製品をそのまま輸出するのは簡単である。
だけれども、そのまま輸出した所では、結局の所、利用者のココロは掴めない。
日本の企業には、まだモノを作るチカラはある。
だけれども、それを世界で売るチカラはナイ。
そして、その発想もナイ。
そんな時代だからこそ、余計にこう言う現地のパートナーの存在は大きいのではないか。
問題なのは、そのパートナーの意見に真摯に向き合えるかどうか…と言うコトになるのかも知れない。
日本の企業は多くの会社が硬直化してしまっていて、臨機応変な対応に欠けるのに加えて、タイムリーな対応や変化も出来ないでいる訳だし。
そして、さらに問題なのは、“日本製品が最も素晴らしい”と考えている様な風潮なのかも。
それは企業戦士だけじゃなくて、我々みんなもまだ日本製と言う安心感の呪縛から抜け切っていない様な感じもあるので。
本書は、1つのサクセスストーリーだけれども、ビジネス書として読んでも面白いし、異文化を見ると言う意味で読んでも面白い1冊。
さすがに新刊ではもう手に入らないかも知れないけれど。
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