『バリ島物語』
原作:ヴィキイ・バウム
作画:さそう あきら
翻訳:金窪 勝郎
刊:双葉社(アクションコミックス)
神々の国・バリの歴史を描く作品
“神々の国”とすら呼ばれるバリ。
今を以てしても神秘さを漂わせる場所だけれども、20世紀初頭のバリ島を描いた作品。
オランダに国土を侵食され、支配され、中国が流通に入ってくると言う段階で、大きく様変わりをして行く過程のバリ島。
その歴史の一片を描いた作品なのだけれども、バリに流れる独特な時間の流れや感覚が、とてもしっくりくる形で描かれているのが、特徴的な作品だと。
人物の描写はもとより、建物・舞踏・服装・小物に至るまで、“あぁ、こんな感じだったんだろうな…”と思わせるには充分な書き込み具合。
迷信や言い伝えの部分も作品中、度々出て来るけれども、それがバリ島に行ったコトのない人からすると、ちょっと分かりにくかったり、ハマりにくかったりする可能性はあるのかも知れないけれど、バリ島を語る上では外せない構成要素なのだから、これは仕方がないとも言えるのだろう。
丹念に描かれているので、こればかりは慣れるしかないかな…と。
圧倒的な時間の流れの中で…
回りくどさ。
人の素朴さ。
人の善良さ。
風習に伝統。
そうした村の世界の中で生きて行く中でも、世界の歴史は動き、村の掟から背こうとする動きがある。
それは今の社会でも同じ様な話なのかも知れない。
だけれども、現代社会は忙しく、娯楽も多い。
作品中のバリ島とは、全く異なる時間なのに、それでも今と同じように感じてしまうのは、何故なのやら。
それだけ作品中のバリ島の時間は、今とは正反対の流れ。
圧倒的に緩やかな時間の流れ。
そうした中で、別軸で動く世界の時間軸。
その2つが交わる時こそ、物語が大きく動く時。
2つの軸が交わったその時、迎えるフィナーレ
バリの王国と、オランダ。
東洋と西洋。
支配される側と、支配する側。
それはそれまでは全く交わる事のなかった2つの軸。
文明の摩擦。
決して交わるコトのナイ価値観。
壮大なフィナーレと言えば良いのか、最終巻となる第5巻では一気に世界の時間軸が動き出し、物語の終焉に向かう訳だけれども、こうした歴史があるからこそ、今のバリ島がある。
バリが今でも“神々の島”と呼ばれているのは、こうした歴史がなければ成り立たない話なのだろう。
バリ島に行ったコトがない人でも、マンガ化されたコトで、読みやすいし、バリ島をイメージしやすくなると思う。
バリ島に行ったコトがある人なれば、より分かりやすく、バリを思い浮かべるには、もってこいの作品。
そんなシリーズ。
全5巻で完結と言うちょうど手頃な長さと言うのも良いと思う。
長すぎず、短すぎず…と言う感じで。
ってか、最近のマンガって、長すぎるんですよね。
商業的にヒットもしくは損益を越えていれば、続けて出したいと言うのは分からなくもないのですが、ただダラダラと惰性で続く様な作品よりも、こうして長すぎず・短すぎずで終わる方が、通しで読んだ時の読後感は良くなると思うのですけれどね…
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