そもそも『旅行人』って、どんな雑誌?
かつて『旅行人』(現在は休刊扱い)と言う月刊の旅行雑誌があった。
“旅行雑誌”と言えば、聞こえはいいけれども、最初の方は、純然たるミニコミ誌だったし、中期もそれにちょっとした表紙が付いただけだった様な感じだし、そもそも“月刊”と言う割に、年10回の刊行だった雑誌。そして何よりも、“旅行”と言うよりも、完全に“バックパッカー向け”の雑誌で、全然、きらびやかさはナイ旅の情報ばかりの雑誌だった。
[amazonjs asin=”B006DE9LOS” locale=”JP” title=”旅行人165号世界で唯一の、私の場所《休刊号》”]ボクが、いつからこの雑誌を読む様になったのか、もう覚えていない。
でも、毎月の刊行日には池袋や今は無くなってしまった神保町のアジア書店に、わざわざ買いに行くぐらい好きな雑誌で、過去のバックナンバーですらも、ヤフオクで一括して買ってしまうぐらいに、はまり込むように読んでいた。
読者からの情報をそのままコピーをして郵送すると言う、今となっては何とも手間だけが掛かるとしか思えない様な“コピーサービス”とかもやっていて採算はどうなっているんだろう…とすら思うコトがあったけれど、めっちゃくちゃマニアックな雑誌で、本格的なネット社会が訪れる前までは、この雑誌が旅立つ前の随一の情報源だった。
そして、もしコレが単行本になったら、絶対に買うと思うぐらいの精度だった“富永マップ”で知られる富永氏の地図が連載されていたのも、この雑誌だし(未だに使えると思うし、もし今、単行本になっても買うと思う)、今や売れっ子作家でもある高野秀行氏とかの名前を初めて知ったのも、『旅行人』であった。
やがて月刊誌だったのが、季刊になり、紙面を一新。
ページ数も厚くなり、ちゃんとした“雑誌”の体裁になり、文化・民族誌路線を行くのかな…と思ったけれども、そうでもなくて、“イエメン”の号とかは、ホントにこの雑誌を持って行っていて(正しくはコピーして持って行った…だけれども)、下手なガイドブックよりも使える旅雑誌だった。
が、それが年2回の刊行になり、やがて休刊に。
旅人の中では、一世を風靡したと言っても過言じゃない雑誌だったけれども、通巻165号。
ちょうど日本におけるバックパッカーブームも過ぎ去ってしまっていたし、色々な海外の事件や疫病なども流行っていたし、読者も執筆者も高齢化し始めていたから、仕方がなかったのかも知れないけれども、この雑誌ほど寂しかった休刊はなかった。
<左:今でも旅行者の少ないバヌアツモノ(1996年3月号(通巻62号)とか、右:ヴァラナシの富永マップが掲載された1995年8月号(通巻56号)>
日本における旅のメディアと言うのは、やっぱり難しい側面があるのかな。
ふと、そう思った。
特集記事で地域を取り上げれば、その地域が好きな人やこれから行こうと思っている人は購入するのだろうけれど、なかなか継続的にそのメディアを買ってくれたり、利用してくれる訳じゃない。
号によってはかなり出版部数に差が出来てしまっても、おかしくはない。
いや、『旅行人』に限って言えば、日本人的にはよく知られていない場所を特集として取り上げるコトが比較的多かったから、固定客は多い部類の雑誌ではあったと思うけれど。
この後も幾つかの旅雑誌が出来ては、消え去って行ったし、そうこうしている間に、出版業界が右肩下がりになってしまった訳で、もうこれから先も、大手の出版社からの旅の雑誌と言うのは、そう期待出来るモノではナイんだろう。
まぁ、ミニコミ誌やZineと言った形であれば、これからもあり得るのかも知れないけれど。
『旅行人』が1号だけ、奇跡的に復活!!
さて、そんな『旅行人』が1号だけ復活した。
出版業界の“休刊”と言うのは、“廃刊”とほぼ同意義だと思っているので、まさか…とは思ったけれども、ホントに1号だけ復活した。
[amazonjs asin=”B075G4Q4RW” locale=”JP” title=”雑誌旅行人166号 (インド、さらにその奥へ、1号だけ復刊号)”]って、ホントにAmazonでも売ってる…(笑)
この『旅行人』を率いていた(今も出版会社としての“旅行人”はあるけれども)蔵前仁一氏。
お堅い紀行モノしかなかった時代に、『ゴーゴーインド』と言う、斬新な(?)単行本を出した蔵前氏。
その『ゴーゴーインド』から30年と言うコトで、記念の原画などの展覧会と共に、この1号が復活したのだ(展覧会については次回記事に…)。
中を読んでみると…
変わらない…
変わらなさすぎる程、濃ゆいのだ。
すっかりネット社会になって、今や、日本や世界の何処にいても、旅の情報は即座に手にするコトが出来る。
でも、こんなに濃ゆい情報、なかなかネットには落ちてないし、拾えないってぐらいに。
だって、アルナーチャル・プラデーシュ州にアパタニ族を訪ねに行ったり、ナガランドだったり、幾らインド特集と言っても、全然、一般受けしない話ばかり(笑)。多分、1番一般受けするのが、“追悼・シャンティさん”と言うコトでのクミコハウスの物語と言う濃さ。
もうアルナーチャル・プラデーシュ州に至っては、“何処よ、それ”レベルだし。
↑この辺り。ブータンの東側の中国との国境線紛争地帯でもありますが、インドが実効支配しているエリア。
こんな場所の記事を取り上げて来るなんて、今でも十分に通用するじゃないか、この雑誌。
ふと、そう思わざるを得なかった。
“インド、さらにその奥へ”。
タイトルに偽りナシですが、“その奥”過ぎます、一般的には(笑)。
そう言えば、『バルカン半島』『コーカサス』『エチオピア』『グアテマラ』…
何気に今、秘かに人気がありそうな場所の特集を出していた『旅行人』。
時代がようやく追いついて来たんじゃない?と言いたくなるぐらい。
ってコトは、かつて『ルーマニア』特集とか出していたから、この先はルーマニア人気とか、来るのかしら…(笑)。
[amazonjs asin=”B001M2IZ8Y” locale=”JP” title=”旅行人159号特集ルーマニア〜ヨーロッパ最後の中世”]そして、読んでいて思うコト。
インターネットがいくら広がって行って、世界が狭くなったとしても、なかなか雑誌に勝る視認性はナイんだな…と言う点。
そして、体系的にまとめられると言うのも、雑誌の利点なのだろう。
やっぱり時々、こうして、雑誌を出してくれないかなぁ…とすら思えてしまう。
まぁ、色々と難しい部分もあるんだろうけれど。
(続く)
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