『僕は沈没ホテルで殺される』
著:七尾 与史
刊:幻冬舎文庫
カオサンに巣食うバックパッカーが主人公のストーリー
物語的には、タイのバンコクにあるカオサン通りの安宿“ミカドホテル”。
日本社会からドロップアウトした沈没組の日本人が集まる“That’s 安宿!”と言うイメージの最底辺ランクの安宿。
そこで殺人事件が勃発。
宿泊者であり、旅人でもあるメンバーが、犯人探しを始めるが…と言う流れの作品。
そう言えば、海外を舞台にした小説って、なかなか多くはナイ感じがあるのですが、バックパッカーをメインに据えた作品となると(しかも日本語だと)、ホントに限られた作品数になってしまう訳で、そう言う意味では、貴重な1作だとは思う。
ただ描写的には、一世代昔のバックパッカーと言う感じ。
カオサンと言うよりも、ジュライとかが全盛だった頃と言う感じだろうか。
辛うじて、サクラがあった頃のカオサンと言う感じ。
今や、こんな沈没組はバンコクだと激減しているし、ほぼほぼ絶滅しているかな?と言う気がしなくもナイですけれどもね。
だからこそ、癖の強い旅人を次々に登場させられると言う感じがします。
往時をまだ辛うじて知っている世代的には、すんなりと受け入れられるストーリーと搭乗人物像なんだけれども、最近の学生とかがこの人物描写を読んだら、どう思うんだろうなぁ…とは。
ただ話的には、しっかりと二転三転があるし、クライマックスに向けて盛り上がる話力があるので、別に、旅の背景が分かっていなくても楽しめる作品だとは思うけれども。
ちゃんと序盤に物語の伏線が数点、散りばめられていたりもしますし。
もうちょっと重厚になっても良かったかも…
タイのカオサンを舞台にしているけれども、別にカオサンじゃなくても成り立ってしまうストーリーと言うのが、やや残念な所。
しっかりと物語を描けるチカラがある方なだけに、タイならではのエピソードだけじゃなくて、もうちょっとタイだからこそ成立する様なストーリー展開だったら、嬉しかったのに…
あとはバンコクだけで完結してしまうのも、ちょっともったいないかも知れませんね。
また折角なら、現地の人がもっと出て来るとかね。
そう言うのがナイから、ややライトな感じで読めてしまうのかも。
まぁ、かなりスムーズに読める作品(自分が旅人だからなのかも知れないけれども)で、1日で読み切ってしまったので、ミステリー作品ではあるのですが、ちょっとしたタイミングで読み切れると言うのは、有り難い作品かも。
ってか、バンコクの安宿って、ホントにこう言う影を持った宿が減ったなぁ…と思う。
一昔前は、窓もなく、天井に大きなファンが付いているだけの、まるで独房の様な、そんな宿がずらり…だったのに。
そう言う意味でも、日々、バンコク(カオサンを含め)って、進化し続けている街なんだなぁ…とも。
まぁ、もっとも、世界各地から人が集まると言うのだけは、昔も今も変わりがなくて、寧ろ、その流れがどんどん加速している感があるのが、バンコクのスゴイ所だなぁ…とも思いますけれどもね。
世界各地に安宿が集まる様な場所や通りと言うのはありますが、カオサン程、“面”で広がっていて、未だに膨張をしているエリアなんてナイですからね。
そう言う意味では、みんな、タイ、好きなんだよね。
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