『弱いつながり‐検索ワードを探す旅‐』
著:東 浩紀
刊:幻冬舎文庫
グーグルが予測できない人生を手に入れよ
この夏のスペイン~ハンガリー・ウクライナへの旅に持参した1冊。
この本を手に取ったのは、“グーグルが予測できない人生を手に入れよ”と言う文庫版の帯にまず惹かれました。
“グーグルが予測できない人生”なんて、最早、あり得るのか。
ふと、そう思った。
思想家である著者の作品なので、難解な作品なのかなぁ…と思っていたのですが、実際に手に取ってみると、平易な感じで描かれていて、案外、読みやすく、そのまま旅の1冊へ。
現代のネット社会は、AI技術が向上するにつれて、検索をすると勝手に予測変換が出て来て、“自身が好みであろうとする”ページや商品を自動的に紹介してくれる社会になった。
一方で、SNSは、友達などの特定の人物とのつながりを、より強くするメディアになる傾向が強くなってきており、結果的に、ネット社会が深化して行っても、スマホやPCなどでは、自分が興味のある情報だけしか目の前には出てこない社会となりつつあり、インターネットはあくまでも“自分が見たいモノしか見ないで済むメディア”と化して来て、新しい出会いを減らしていく羽目になっている。
そうなると、自分の元から持っていた考え方などは、どんどん凝り固まって行くだけになる訳で、それを変えるには、自分の中に新しい検索ワードを作るしかなく、その方法が、身体を移動させるコトであり、“旅”と言うコトだ。
旅に出て、環境を変えるコトによって得られる検索ワード。
それが大事であり、旅をするコトで、日本語の情報から1度、離れ、ネットのチカラを使うコトによって、自分の固定観念が打破出来るのではナイか。
こう言う切り口自体は、そこまで新しい論理でもナイ様には思えるし、旅をしている人であるならば、無意識の内に実践している様な話でもあるけれど。
旅もまた、均質化しているモノだけど。
ただ、世界が均質化・フラット化して行く中で、旅もまた、均質化して行っている。
いや、世界の文化の均質化よりも、旅の均質化の勢いの方が、早い様にも思う。
それはインターネットが発達し、スマホやPCがあれば、誰でも、そして、何処にいても即座に情報を仕入れるコトが出来るからだ。
そして、その仕入れた情報と言うのは、元々は誰かが実際にそこを訪れた際の情報であり、結局の所、昨今の旅はその“誰かの旅の焼きまわし”にしか過ぎず、“秘境”だのナンだの言われた場所ですら、今や観光地と言う時代。
観光客と言う“責任のない立場”に立つコトが必要であると説くが、そもそももう何処に行ってもネット社会の呪縛からは、逃げられない訳で、総論は非常に有益な話なのだけれども、さて、どうなんだろう…と考えてしまいたくもなる。
だけれども、この手の作品の中では非常に読みやすく、手に取りやすい作品に仕上がっていて、ページ数も大したモノではないからか、中身がガチガチになっている訳でもないので、受け手の取り方次第と言う部分もあるのかな…と。
でも中身が薄い様に見えて、色々と考えさせてくれる1冊にも思えた。
弱いつながり。
そもそも強いつながりを維持する為に、今や“インスタ映え”なんてコトバすらある。
わざわざネット社会の中で、そんな疲れる文化に流れて行かなくてもいいのに…なんて、思ったりもする。
そのつながりが弱い分、色々と発見がある方が面白いのに。
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