『深夜特急』で沢木氏が見た景色
インタウンチェックインを終えて、最後にふらりと、スターフェリーへ。
スターフェリー。
香港島と九龍半島とを結んでいる船。
“スターフェリー”と“フェリー”と言う言葉が付いていますがそこまで大きな船ではない。けれども、何処か発展する香港の中にあって、時間が止まってしまったかの様な、そんな船。
中環駅からも歩いて行ける所に香港島側の乗り場があるので、早速、歩いて行ってみると…
ホントに時間が止まったまま。
香港に来るのも15年ぶりぐらいなので、乗るのもそれ以来…と言うコトになるハズなのに、変わった所を探すのが苦労するぐらい(初めて香港に来た時は、オクトパスカードがまだなかったので、オクトパスが利用出来る様になったぐらいかも)。
このスターフェリー。
最後に…と思ったのは、やっぱり沢木耕太郎著の『深夜特急』に記述があるからなのだと思う。
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ちょっと引用してみる。
しかしなんといってもよく乗ったのはフェリーだった。とりわけスター・フェリーは、香港島へ渡るときはもちろんのこと、用がない時でもただ漠然と乗っては往復して帰ってきたりするほどだった。私はスター・フェリーが好きだったのだ。スター・フェリーには、昼には昼、夜には寄ると、その時刻によってそれぞれ異なる心地よさがあった。光の溢れる日中には、青い海の上に真っ白な航跡が描かれ、その上をゆったりと鳥が舞う…(中略)…60セントの豪華な航海。私は僅か7,8分に過ぎないこの乗船を勝手にそう名付けては、楽しんでいた。
このくだり。
単なる船に当てもなく乗っていただけ。
なのに、ちょっと哀愁があって、それでいて浪漫すら感じてしまう。
やっぱりこの作品を読んだからこそ、香港ではスターフェリーに乗ってしまうのだ、意味もなく。
ボクの中の香港の景色がココにある。
床・手すり・座席…
船内のあらゆる場所が、もう人の匂いが染み込んでいる様な古さ。
それらが醸し出す、安心感にノスタルジー。
それでいて、外の風景は高層ビル群。
夜になったら、これらが一斉に光で輝き、“百万ドルの夜景”の灯になる。
外の風景は著者である沢木氏が見た風景からは変わってしまったに違いない。
でも、この船だけは、きっと変わっていないのだろう。
『深夜特急』を読んで旅に出始めた訳ではない。
でも、この作品を1巻ずつ、毎回、旅に持って行っては読んでいた。
文庫版で全6巻あるので、読み終えるのに旅を6回もしなければいけなかったけれども、ボクの中でこの本は、旅の道中で読みたい本だった。
風の中、雑踏の中、へばる様な暑さの中、誰もいない様なビーチで、読んだ作品だった。
だからこそ、大切な作品の1つ。
そんな作品に出て来る風景。
それが今もまだ、自分の目の前に現れる。
もうそれで満足だった。
そして、やっぱりボクの中での香港の風景は、この船の中から見えるビルであったり、海なんだな…と、ちょっぴり実感した。
って、まぁ、そんなおセンチな気持ちになるのも、最終日だから、良いよね(笑)。
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