『観光の哀しみ』

『観光の哀しみ

著:酒井 順子
刊:新潮文庫

旅は面倒くさい

久しぶりにあまり重たくなく、クスッと笑える本が読みたいなぁ…と思って、まず本棚から手に取ったのが、米原万里さんの本。

ただ今のタイミングで、海外にまつわるような本と言う気分じゃなかったし、そもそも米原さんの著作はクスッ言うかゲラゲラなので、読む場所を選ぶので、随分と前に発売になった本だけれども、こちらの本を、久しぶりに読了。

多くの人は、きっと“ワクワク”だったり、“ドキドキ”しながら旅に出るんだろうけれど、ボクの場合は、真逆で、 実は“どうしてこの国に行こうとしているんだろう…”なんて思いながら、空港に行きます。

何度も旅をしても、毎回、そう思うのは、「旅」って確かにワクワクするけれど、わざわざその場所に行かなければならないモノで、どこまで行っても所詮は余所者で、面倒なモノだからなんだと思う。

同じ期間を過ごすのであれば、エアコンの効いた部屋で、ボケーッとしていた方が楽ですし、買い物に行っても、レストランに行っても、清潔で言葉も通じる訳ですよね、日本にいれば。

それをわざわざ好んで、清潔じゃないかも知れないし、言葉も通じないような場所に行く訳ですよね。

考えただけで、面倒でしかない。

まぁ、それでも「旅」に出るのは、それを上回る楽しさがある訳だし、いざ旅に出てしまえば、面倒さも感じないのですし、現地に到着してしまえば、“どうしてこんな国に…”なんては思わないのですけれどもね。

愛のある毒は面白い

本書は、楽しいばかりではない「観光」の中で、「哀しみ」について語るエッセイ。

どこに、誰と、どうやって行くのか。

その選択で生じていく「観光の哀しみ」をザクッとまとめた1冊。

どんな感じでザクッとまとめてあるのか、前後の文の脈略を一切無視して、ちょっとだけ引用してみると、こんな感じ(引用元は全て『観光の哀しみ』から)。

サンリオキャラクターにしてもそうです。サンリオピューロランドにいる着ぐるみのキティちゃんは、「異様にバランスの悪い巨大猫」であり、「中に人が入っている」と言う感覚を見ている者に強く与えてしまう。

そうそう。

やっぱり立体になった時の違和感と言うのは、ミッキーマウス以外だとなぜかひしひしと感じてしまう不思議さ。

個人的に1番、違和感があるのは、ムーミンですけれどもね。
ムーミンバレーパークは、さすがにスナフキンは生身だったので、ちょっとホッとしました。

でも昨今、ブームになったゆるキャラは、そもそも立体を想定して作られているので、違和感を感じないのが不思議ですけれどもね。

私も、ミュージアムというものには全く興味が無いタチ。美術に対する興味や知識がほとんど無いので、世界各地の有名美術館に行っても、その価値が良く分かりません。せいぜい、

「あ、モナリザだ」

などと、自分の記憶上の像と実物とを重ね合わせ、「同じ同じ」と納得したり「意外とデカい」などと思うことくらいしかできないのです。

もう激しく分かる。

美術館も博物館も、やっぱり訪れる前に下地がなければ、楽しめないんですよね。

まだ博物館は、その土地の歴史や文化について学ぶと言うコトができるけれど、美術館って、前後の流れとか、他の同時期の作品とかを分かっていないと、単なる“1枚の絵”でしかなくて…(笑)

特に不満なのは、「るるぶ」的なムックガイドの表紙。ガイドブックには無い情報が載っていそう、と買ってしまうこともあるのですが、本屋さんのレジに出す時ですら「こんな本を買う私ってバカだと思われないかしら」という不安で下を向いてしまうほどの、バカレイアウト。

うん。

ホント、その通り。

「ことりっぷ」のように、随分とデザインに気を使ったと思えるガイドブックは出て来たけれども、ムックタイプだと、未だに、表紙のデザインを気にしている感は、ゼロ。

あまりにも「そこに今から行きます!」オーラ全開のデザインで、前時代と言うか、いつのデザインだろう…的な感じすらしますモンね。

こんな感じで、短めの観光にまつわるエッセイが、ずらり。
短めでどれも勢いがある感じが、どんどん迫って来る。

ちょっと古い本ですが、別にそこまでリアルな話ではないので、読めます。

でも別に毒づいているだけと言う訳にも思えないのは、基本的に、「観光」「旅」に著者が深い愛着を持っているからなのだと。

ま、そうでなければわざわざこんなエッセイ、書かないでしょうけれどもね。

普段、こう言う軽いエッセイは、そこまで読まないけれども、たまには良いですね。

面白く読める。

できれば、同じ著者で米原さんみたいな含蓄のあるエッセイが読みたくなるな。

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